昭和の香りが色濃く残る会社に飛び込んだ平成生まれの体験談

大学を卒業してから新卒で入社した神奈川県のお弁当屋さん。

 

高知県の大学に通っていた私は、入社前に会社見学をさせて頂く機会を貰い、はるばる高知県から神奈川県まで向かった。

 

社員は全員50代のおじさんで、お弁当の良い香りと加齢臭が漂う工場内を部長(55)に案内してもらった。社員全員を紹介してもらったが、みんな仕事中だったこともあり、第一印象はとにかく愛想が悪い。

 

さらには社員7名ほどに対してパートのお婆さんや出稼ぎのベトナム人が合わせて20名ほど働いており、私に好奇の目を向けてくるが、話しかけてくる者はいなかった。

 

そんな会社見学から3ヶ月後、晴れて入社の日を迎えた。見学の際のあまり良くないイメージのまま出勤したが、見学の日にはいなかった店長だけは積極的に話しかけてくれ、好印象だった。この時までは。その後、挨拶や簡単な自己紹介を経て仕事が始まったのだが、新人研修やマニュアルのようなものはなく、誰も仕事を教えてくれない。

 

今何をしているのかを誰も説明してくれないのである。

 

これだけでも新社会人で右も左も分からない私にとって厳しいスタートのように感じたが、本当の苦労はここではない。

 

会社見学の際に社員の愛想が悪かったと書いたが、実は副店長だけは愛想が良く、いい人そうな印象をうけていた。店長も最初は優しかったが、すぐに仕事中に他の社員やパートに怒鳴り散らかしているのを、目の当たりにし、その矛先はすぐに私の方にも向くようになった。

 

しかし、副店長はそんな感じもなく、唯一私に仕事を教えてくれる人だったので、この人は大丈夫なんだと安心していた。

 

しかし1ヶ月もすると、この副店長こそが最も厄介な人間であると気づいた。とにかく私がする仕事の粗探しをしていて、ミスを見つけると呆れ笑いをしながら小言を言ってきたり、急に怒鳴ったり、ネチネチ嫌味を言ってきたり。さまざまなパターンで私を追い詰めてくるのである。

 

しかも一階の説教が長い。この副店長は過去に店長をやっていたそうだが、何か問題を起こして副店長に降格させられているらしく、さらにはプライドがその辺の山より全然高い。

 

(この人に限らず、社員のおじさん達はみんなプライドが高い)そのため、あまり仕事のできない店長のことを下に見ており、両者の間で私への指示が正反対になることが多々あった。

 

店長に右を向け!と怒鳴られたのに、数分後に副店長に、なんで右を向いてるんだ!左だろ!と怒鳴られるといった具合である。そんなことが一度や二度ではない。

 

他の社員にも怒られることはあったが、あまり私に対して関心が無く、しつこく絡んでくるようなことはなかった。店長に関していえば、とにかく沸点が異常に低く、普通の人が100℃であるとすれば、四十℃くらいでブチギレる。もはや何にキレているかも分からないということがよくあり、一度不機嫌になると誰も手がつけられないといった人間である。

 

なので質問や分からないことを聞きにくく、かといってミスをしたり戸惑っていると怒鳴られるといった悪循環に他人を陥れるめんどくさい奴で、社内の全員から陰口を言われている。

 

そんな人間が店長をやっているのだから、憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものである。

 

今思えば、人前で怒鳴られたり、皮肉めいた事を言われたりなど、はっきりパワハラだったなと思うが、当時は新卒一年目の自分の未熟さのせいだとも考えいてた。

 

しかし知識や経験が無かろうが、それがハラスメントをして良い理由に成らないので、これから社会に出ようと言う若者にはそのことをぜひ胸に刻んでおいて欲しい。

 

ハラスメント繋がりでもう一つ。

 

その会社はお弁当デリバリー業務も行っているので、40代が中心の配送パートのおばさんも10名ほどいた。

 

みんな若い時は美人だったんだろうなと思わせる容姿で、社員のおじさんどもによる顔採用が行われていることは明白だ。

 

る日、配送パートの人に聞いた話では、セクハラが日常的に行われているらしく、実際に私もその現場を何度も観た。

 

体には触るし、発言も現代のコンプライアンスに照らし合わせればほとんどアウトの物ばかり。

 

さらには、私のような下っ端社員には当たりが強いクセに、配送のおばさん達にはゴマスリばかりで常にご機嫌を伺っている始末である。

 

そんな人間に理不尽に怒鳴られていた事を思い出すと、今でも腹が立ってしょうがないのである。

 

非常に苦しい一年目を過ごしたが、辞めずにいられたのは上述の配送パートのおばさん達のお陰である。

 

彼女らの息子、娘と私がちょうど同い年くらいで、非常に可愛がってもらい、たくさんフォローもして頂いた。人間関係に苦しんでいる時、そこから救ってくれるのもまた人間関係であるのだなと身に染みて感じている。

 

入社してから半年ほど経った時から、店長の態度が急変した。相変わらず怒鳴ることはあるが、私自身が怒られることは激減し、期限も以前より良くなったように見える。

 

副店長の方は、入社後一年経ったあたりからようやく態度が軟化して、怒られることがほぼなくなった。

 

どちらも理由は全くわからないが、以前よりも仕事の具体的な指示をもらうようになったり、ある程度の大きな仕事を任されるようになり、それをこなせるようになったことが大きな要因かも知れない。

 

そこまでの道のりは長く険しかったが、彼らを納得させる仕事ができるようになったということであり、自分の力で評価や信頼を勝ち取れたような感覚で、今では少し誇れるような思い出でもある。